井上公認会計士・税理士事務所

税法のいう「生計を一」


税法ではその要件として「生計を一に・・・」という定めがあります。
 
例えば、相続税における小規模宅地等の特例の要件(措法69条の4)、所得税における扶養親族や控除対象配偶者等の定義(所法2条)等々です。
 
相続税における小規模宅地等の特例は、相続税額へのインパクトが大きいため、その適用の有無は慎重に判断する必要があります。
 
「生計を一」の語感からの印象としては財布が一緒くらいのイメージでしょうか。
 
この文言のこれ以上詳細な説明は法律にはなく、実務上は所得税の基本通達(国税庁の内部規範)や裁決事例などを参考にすることになります。
 
所得税基本通達ではこのように書かれています。
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法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
 
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
 
 イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
 
 ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
 
(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
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まずは同居しているか否かが判断の上で重要だと思われます。ただし、会社員で単身赴任している場合や子供が学業の為に親元を離れて一人暮らしする場合であっても、通常は、生計を一にしていると判断するのが妥当するのでしょう。
 
また、過去に争われた裁決(平成20年6月26日採決)の概要(簡略化してます)は以下のとおりです。
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※納税者の主張
・生計とは「暮らし」、「生活」を意味し、生計が一であるとは費用を負担し合うことだけではない。
・被相続人が入院しており、入院費の支払をはじめ入出金管理及び預貯金等財産の管理をしていた。
・毎日のように植木の面倒、郵便物の確認等、被相続人の居宅の管理をしていた。
・そもそも「生計を一」の定義がなされていないのは法の不備である。
 
※国税庁の主張
・本件特例のいう「生計を一にしていた」とは、日常生活の資を共通にしていることと解されるべき
・納税者は被相続人と同居していない
・納税者と被相続人との間で日常生活のために費用を負担し合う状況にはなかった
・財産の管理等をしていても日常生活の資を共通にしていることと直接的関連はない
・定義規定がない文言については解釈が必要になるのはいうまでもなく、法の不備による不利益は国税庁側が負うべきとの主張は理由がない
 
※国税不服審判所の見解
・本件特例にいう「生計を一にしていた」とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の資を共通にしている場合をいい、「生計」とは、暮らしを立てるための手立てであって、通常、日常生活の経済的側面を指すものと解される
 
・したがって、被相続人と同居していた親族は、明らかにお互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、一般に「生計を一にしていた」ものと推認されるが、別居していた親族が「生計を一にしていた」ものとされるためには、その親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたことを要する。
 
・その判断は社会通念に照らして個々になされるところ、少なくとも居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の全部又は主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要すると解される
 
・本件では①被相続人と請求人は別居していた②入院費やガス料金等は被相続人が負担している③植木の面倒や郵便物の管理等の事実は生活の場を別にしている親子間の通常の助け合いである、ことから「生計を一にしていた」とは認められない。
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 別居親族が財産管理や植木の手入れなどを行っていても、「生計を一にしていた」とは言えず、小規模宅地等の特例の適用は認められないと判断された事例です。
 近年は二世帯住宅なども増えており、同居していても「生計を一」の判断の際は多面的に検討をしておいた方が良いでしょう。
 
 
※本コラムは個人的な意見又は感想が含まれており、また、可能な限り信用し得る情報を基に記載をしておりますが、正確性を保証するものではございません。従って本コラムを根拠に意思決定をなされた場合においてもその責任を負いかねます。法律や会計基準等の適用については個別的事情を踏まえ総合的に判断される必要があります。意思決定を行う場合には各種専門家の適切な助言を得るようお願い致します。
 

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