井上公認会計士・税理士事務所

国外財産と相続税。知っていますか?


Q 海外にある財産は、相続税がかからないと思いますか?
A ほとんどの場合は、残念ながら、相続税がかかります。
 
通常の相続は、被相続人又は相続人のどちらか又は両方が日本に居住していることでしょう。その場合は、相続税の課税対象となる財産の所在が国内外どこにあろうが関係なく、全世界の財産に対して課税されることになります。
 
この点、海外にある財産について、現地国で日本の相続税に相当する税が課された場合(いわゆる二重課税)は、一定の範囲内において税額が控除される取扱いがあります。
 
レアケースですが、国外財産について、日本の相続税が課税されない場合があります。
 
・被相続人が日本国内に住所を有しておらず、かつ相続人が日本国籍及び日本国内に住所を有していないケース
・相続人が日本国籍を有している場合であっても、5年を超えて国内に住所を有しておらず、被相続人も5年を超えて国内に住所を有していないケース
 
例えば、親子とも日本を離れ海外に生活の本拠を置き、5年を超えた時点で相続開始となれば、国外の財産に日本の相続税は課されないことになります。
 
 
Q 海外にある財産は、国税庁にばれないと思いますか?
A 基本的にばれると考えたほうが良いでしょう。もちろん、国税庁が把握できない場合もあるかもしれませんが、年々把握し易くなっていると思います。
 
この点、まずは国外財産調書というものをご存じでしょうか。
 
ざっくりいうと、日本の相続税の課税の適正化(海外財産に係る相続税の脱税防止)のため、一定金額以上の国外財産を保有する日本国居住者は、その国外財産の内容について記載した書面を、所轄税務署長へ提出する必要があり、当該書面を「国外財産調書」と呼びます。
 
概要としては
・年末に国外財産の合計額が5,000万円超の人が提出しなければならない
・翌年の3月15日までに提出する必要がある
・現金預金だけでなく、不動産や有価証券、出資持分や貸付金、デリバティブの評価額なども財産に含まれる
・財産が国外財産なのか国内財産なのかは資産内容により異なる。(例えば、海外企業の株式を日本の金融機関の支店で保有する場合の当該有価証券は国内財産にあたるなど)
・偽りの記載をした場合や、正当な理由なく不提出の場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される
・不提出又は記載漏れ等の場合で、所得税等の申告漏れが生じた場合は、過小申告加算税等のペナルティが加重される
 
このように、まずは、納税義務者自らによる情報収集措置が昨今整備されたところです。
 
これに加えて、国外の税務当局と日本の国税庁との円滑な(自動的な)情報交換制度も昨今急速に整備されつつあります。
 
スイスUBSの米国人脱税ほう助事件と、その後の米国政府によるFATCA(FACTAと違います)法の整備、それに伴う日米のFATCA順守のための共同声明及び日本の金融機関の対応、米国主導からOECDとして全世界的な情報交換制度構築への流れ、そして昨今のパナマ文書に伴う租税回避(又は脱税)の世論への対応等をみると、数年のうちに日本の納税者の海外財産保有状況が容易に入手できるようになる可能性は十分にありそうです。
 
また、目的は異なるものの、グローバルでのマネーロンダリング対応への措置と手段が似ている点がありますので、脱税防止とマネロン防止は両輪で加速度的に対応がなされそうな状況です。
 
近年のIT(AI?)技術をもってすれば、アマゾンでの購入時に出てくる「これを買った人はこのような商品も買っています」といった感じで、労せずに相続財産の漏れが把握できるようになるかもしれません。
 
 
※本コラムは個人的な意見又は感想が含まれており、また、可能な限り信用し得る情報を基に記載をしておりますが、正確性を保証するものではございません。従って本コラムを根拠に意思決定をなされた場合においてもその責任を負いかねます。法律や会計基準等の適用については個別的事情を踏まえ総合的に判断される必要があります。意思決定を行う場合には各種専門家の適切な助言を得るようお願い致します。
 

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